15〜16年前のこと。
近くの中学校で『職業体験』という授業があり、その学校から、仕事を体験させてほしいと依頼がありました。
どうやら、生徒から体験したい職業の一つに挙ったとのこと。なかなか珍しい職業を選んだものです。
銭湯は当時、多くの店が夕方からの開店で、それまでの間に準備をします。
『職業体験』では、裏方の仕事である、「お湯を沸かす作業」を体験してもらうことにしました。
一般の人は、入る事も見る事もまずないであろう、『釜場』という、お湯を沸かすために火を焚く場所に入ります。そこには大きな焚き口と、大量の薪が積まれています。
イメージ的には、蒸気機関車の焚き口が近いでしょうか。巨大な暖炉というか、ピザ釜の火力最大にしたものと言いますか。
薪はだいたい一日分を用意します。どんなに混んでいても、お湯の最大使用可能量は決まっているので、その店の『カラン』(≒蛇口)の数に合わせた『釜』の大きさになっています。そして、その釜で沸かせるお湯の量に見合う、薪数を用意するのです。まあだいたい経験で量がわかります。
釜場では、火を扱う為にコンクリートで固められた場所になっていて、地震にも強く、風呂屋の建物の中でも安全な場所と言われたりします。
焚き口には予め火をつけておいたので、ゴオオオという音がしていました。風呂屋の親父さんが、革の手袋をして扉を開けると、勢いの強い火がガンガン燃え上がっていました。
職業体験とはいえ、目の前で燃え盛る炎を前に、中学生に薪を入れるのはあまりに危険でした。これについては止むを得ず中止が妥当と判断し、風呂屋の親父さんが薪を手際良く入れるのを見学することになりました。